溶ける

リクエスト@あめ様



通り雨。

だだっ広い田んぼの真中で突然の驟雨に襲われて、逃げる術無く濡れ鼠。

ヘイハチは、春雨じゃないけど濡れてゆこうと、ゴーグルだけ下げて歩いた。

真っ白いフィルターでもかけたような景色に、人っ子一人見えない。

全ての音を遮断してしまうような、細い針金格子の雨にヘイハチはあえて鼻歌交じりで歩いた。

「ん?」

向うから熊が現われる。

いや、熊ではない。

「ヘイさんじゃないか」

「ゴロさん」

ヘイハチはゴーグルを上げて笑った。するとゴロベエも笑う。


「この雨で、皆どこに隠れるんだか」

「左様。猫の小一匹おらぬ」

へへ、とヘイハチは笑った。

そして、そのままゴロベエの濡れた胸に頬を寄せる。

「ヘイハチ?」



「溶けて、しまいそうですね」

「雨にか」

「ええ。このまま二人で溶けてしまいそう」

「この雨だものな」

ヘイハチの頭をポンポンと叩いたつもりが、ぴしゃぴしゃと雨のはねる音がした。

ヘイハチが上をむいてキスを求めた。

そっとその唇に落としてやると、雨の味がした。




END