あーん
リクエスト@チポ様
朝餉の時間。
今日は珍しく全員がリキチの家に集まっている。
当初配膳はキララを筆頭に村の女達がしてくれていたのだが、逗留が長くなるにつれ
何となく申し訳なくなって、カンベエ、ゴロベエ、ヘイハチを除いたサムライ達が当番制でやっている。
膳もそろい、今日も炊き立ての白米と味噌汁の椀、それに少しの漬物が嬉しい。
全員で確り手を合わせ、さて食べようとした時。
「箸が、ない」
ヘイハチの切ない声が上がった。
「え!?」
驚いたのは今日の当番のシチロージだ。
「無い…?」
「無いです」
シチロージは慌てて、「今すぐ!」と言って立ち上がったが、それを制した者がいた。
ヘイハチの隣に座っているゴロベエだ。
「まあまあ。箸の一つなくても飯は食える」
「ゴロさん、握飯じゃないんですから」
ヘイハチが苦笑するが、ゴロベエは「まあ、見ていろ」と笑って、おいでおいでとヘイハチに手招きをする。
そして、自らの茶碗の飯を箸でヘイハチの口に運んでやった。
「こうすれば一膳でも事足りる」
「本当だ―。流石ゴロさん」
なあ、と二人は皆を見回すが、シチロージは気恥ずかしくて見ていられないし、カンベエは何事も無かったかのように
味噌汁を啜っている。
キュウゾウは凝視し、 若いカツシロウと常識人のキクチヨは固まっていた。
「じゃあ、今度は私が」
「そうだな。では宜しく頼もう」
と、こんな二人のやり取りが続く中、ついにシチロージが切れた。
「お二人とも!!いい加減になさい!」
するとヘイハチが片方だけ目を開いてにやっと笑う。
「シチさん、羨ましいんですか?」
「ちっとも!朝っぱらから何こっ恥ずかしいことしてるんですか!早く食って、仕事しなさい!」
しかし、パリパリといい音をたてて漬物を食べているカンベエが「まあ待て」とシチロージを止めてしまう。
「朝餉ぐらいゆっくり取らせてやれ」
「しかし…!」
カンベエはもう何も言わない。
すると免罪符をえて二人は益々図に乗り出す。
挙句の果てには、ヘイハチはちゃっかりゴロベエの膝に収まっているではないか。
「…くっそー…」
シチロージはフンと鼻を鳴らしてどっかと座ると、味噌汁と飯を一気にかっこむというシチロージらしからぬ所作で
朝餉を終えて、一人足早に出ていった。
キュウゾウが、茶碗を持って箸を握り締め、じっとカンベエを見ているが、カンベエは「やらんでいいぞ」と一言呟く。
そこへリキチが顔を出した。
「今、シチロージ殿が大した剣幕で出て行っただが、どうしたんだか」
誰も答えようとしない中、キクチヨが箸の尻で頭を掻きながら「あー」と言葉を探した。
「難しい年頃なのよ」
「はあ…」
そんな中、ゴロベエとヘイハチの迷惑な朝餉はまだまだ続いていた。
END