壱弐様とのコラボレーション!!


パラレル注意。


設定:教師なゴロさんと生徒なへイさん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 










さて、どうするか。

ゴロベエは猫の子のようにすっぽりと膝に収まってしまうヘイハチの頭を眺めて息をついた。

先ほどまであんなに嬉しそうに、昼飯の握飯を食っていたというのに、食い終わったと思ったら、電池が切れたように眠ってしまう。

散々、今日の握飯の形は会心の作ですなどと大袈裟までに自慢していたのが幻のようだ。



昼休みの終わりを告げる予鈴まで後五分。

ギリギリまで寝かしておいてやりたいが、この調子だとすぐ起きるかどうか。


ヘイハチの両親は幼くしてこの世を去ったと聞く。

施設で育ち、その後何年かバイトをして、全日制の高校を受験したそうだ。

故に、童顔な彼からは想像つきにくいが、他の生徒より二年ほど年が多い。

ヘイハチが一年の時に担任だったゴロベエに特別に甘えるのは、失った父親の影を重ねているのだと思っていたから、

他の生徒に気づかれぬ様、色々世話を焼いて面倒を見た。

無邪気すぎる笑顔と、偶に見せる途方もない闇は、ゴロベエの同情心を煽るのには十分だった。

そして、ヘイハチの級が進んでも、ゴロベエはそのままヘイハチの面倒を見つづけている。



「ったく、幸せそうに眠りおって」

ゴロベエはヘイハチの頭を撫でてやった。よほど安心して眠っているのか、はたまた連日のバイトで疲れ果てているのか、

ヘイハチはピクリとも動かない。

最初に会った時のヘイハチは、笑顔は見せるものの誰にも本心を見せず、頑なだった。

かといって、そんなヘイハチを普通の生徒のようにしてやるような無責任な術をゴロベエは持たなかったし、

表面的にも問題のない生徒におせっかいをかけていい程、ヘイハチは若くも弱くもなかった。



しかし何かの偶然で、一度昼飯を共にした時から変わった。

その日は偶々、初夏の風が気持ちがよく、紫煙のけぶる職員室で昼飯を食う気になれず、

読みかけの本を持って、人通りの少ない国際交流ナントカとかいう留学生が来たときだけに使われる教室の外の、

非常階段にやってきた。

ここは外からは死角になって見えないし、風通りがよく穴場的存在なのだ。

今までここで人に出会ったことはなかったが、その日は初めて先客がいた。

それがヘイハチだった。



ヘイハチはゴロベエを見てもいやな顔一つせず、「ども」とペコリと頭を下げてみせる。

隣、いいかと尋ねると、ヘイハチはどうぞどうぞと開けてくれた。


何となく取り留めのない会話をしていたが、

「ヘイハチ、お前の握飯は美味そうだな」というゴロベエの一言に、ヘイハチの表情が変わった。

この年頃の生徒なら、絶対に見せないような幼く無防備な笑顔で彼ははにかんだ。

「恐縮です」

「毎朝作るのか」

「ええ。私は米が大好きなもので」

「ほう。パン食が増えている中で、中々貴重だな」

「はは、そうかもしれませんね」

お一ついかがです、と差し出された握飯は、綺麗な三角を形度っていて、かといってコンビニで売られる無機質なものとは

縁遠く、米がふっくらと立っていて、握りたてではなくとも美味そうだ。

「御相伴に預かる」

「どうぞどうぞ」


ゴロベエとヘイハチが一緒に昼飯を取るようになったのはそれからだった。

いつも、ここで二人で雑談しながら昼飯を食う。

それが心底楽しい様で、ヘイハチはよく喋った。

自分のことはあまり話さなかったが、それ以外のことは何でも喋った。

無邪気に懐いてくるヘイハチが余りに可愛くて、ゴロベエも手を差し出してやる。

ヘイハチも素直にその手を取ったものだから、父親のように抱きしめてやった。




「ゴロさん、大好きです」

「なんだ、起きてたのか」

膝の上で、ヘイハチが目を閉じたまま笑った。

「起きてました。でも、ゴロさんの膝の上があまりに気持ちがいいから…」

一体いつからこうなったのか。

ヘイハチもゴロベエも、いつの間にかお互い愛と口走るようになった。

幸薄いヘイハチに向けた保護者の目が、いつ恋慕になったのかは解らない。

そして、ヘイハチも同様、ゴロベエを思慕の目で見るようになっていた。


「後、三分で予鈴が鳴る…。鳴らなければいいのに」

ヘイハチが呟いた。

どこで誰が見ているのか解らないから、二人の逢瀬はこの昼時のみ。

それが二人のルールだった。

ヘイハチはぎゅっとゴロベエの綺麗にアイロンがかったシャツを掴む。

ゴロベエはそんなヘイハチを優しく撫でてやる。




そして今日も、予鈴は鳴った。






END


壱弐様とのコラボでした!ありがとうございます。

先日のチャットで そういう話になりまして、話をつけさせていただきました!

割と暗めの話で甚だ恐縮です。

予鈴なんて久し振りに聞いた響きだ…。